筋肉増量のダイエット効果は“ほぼ幻想”だった
「筋肉増量で基礎代謝量を増やしてダイエット効果を得る」といった考え方が世間では見られる。
説明は合理的だが、ほとんどの人にとってこの考え方は”幻想”に過ぎないようだ。
「筋肉をつけて、基礎代謝量を上げる」と言うが・・・
収縮したり弛緩したりすることで、動物の体を運動させる器官。
これが筋肉だ。
量が減ると、運動するのも困難になるので、筋肉はある程度なければならない。
一方、筋肉の量を増やすとどうなるかに目を向けてみる。
すると「筋肉の増量がダイエット効果を高める」という話に出くわす。
その理論はこうだ。
筋肉は“カロリーの浪費家”であり、体をじっとしていても行われる代謝、つまり基礎代謝が激しく続けられている。
そのため、筋肉を付ければ基礎代謝量が増えて、体は食などで蓄えたエネルギーをよく消費し、いつもダイエットしているような効果を得られる・・・。
この理論による取り組みを、仮に「筋肉増量ダイエット」と名づけよう。
インターネットのダイエット関連サイトでは、このダイエット法を薦めるような文言が見られる。
「トレーニングで体の内外の筋肉を増やすことによって基礎代謝による消費カロリーの量を増やすことができます」(「ダイエット食品事典」より)
「少し大股で歩く、姿勢を正しくして歩くなど、歩き方に気をつければ少しずつ筋肉をつけて、基礎代謝量を上げることもできます」(「ダイエットピンキー」より)
「部活動程度」では基礎代謝量に差がつかず
人の場合、すべての代謝の中で基礎代謝が占める割合は約6割とされる。
それほどの高い割合だから、筋肉を増やせれば、普通に生活していてもダイエット効果を得られそうな気になってくる。
問題は「筋肉の量を増やすと基礎代謝量がどのくらい増えるのか」だ。
北星学園大学の医学やスポーツ科学の研究者たちのチームは、「若年女性の運動習慣が基礎代謝量、および体組成に及ぼす影響」という研究ノートを発表している。
女子大生15人を、部活動で運動を長いこと日常的に続けている「継続群」、続けていた運動を中止した「中止群」、運動をしていない「非運動群」に分けて、各群の基礎代謝量などを測ったという。
結果、どの群においても、1日あたりの基礎代謝量にも、また体重1キログラムあたりの基礎代謝量にも「有意な差は認められなかった」としている。
一方で、体重における脂肪の割合を示す体脂肪率については、継続群は中止群より約3.1パーセント、非運動群より約4.1パーセント、低かったとするデータを示している。
つまり、どの群でも基礎代謝量に差は無かったが、体脂肪率は運動をしている人のほうが低かった。
この意味するところは何か。
研究チームは、部活動ぐらいの運動は「競技者のように筋量の増大によって基礎代謝量を高くしてエネルギーを消費するまでは至らず、活動を続けることによってはじめてエネルギー消費量が保たれる」と推察している。
筋肉1キロ増で寿司1貫のシャリ分・・・
筋肉量と基礎代謝量の関係に詳しい運動生理学の研究者は、「確かに筋肉量を増やせば基礎代謝量は上がります」と、関係性を認める。
一方で、「筋肉を1キログラム付けた場合、1日の基礎代謝量が上がる分は30〜50キロカロリーに過ぎません」ともいう。
30〜50キロカロリーといえば、ご飯にして20〜35グラムほど。寿司1貫分のシャリと同じぐらいだ。
では、その筋肉1キログラムを付けるには、どれだけの取り組みが必要となるのか。
フィットネストレーナーの山本ケイイチ著『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』(幻冬舎)には、「筋肉1キロを純粋に増やそうと思ったら、約1年間が必要と言われている。それもボディビルダーのように体の土台ができた人が実験台になり、運動メニューや管理栄養もばっちりという、厳密にコントロールされた状況でトレーニングを行ったとして」とある。
もっとも、ボディビルダーは極限レベルまで達しているので、一般人のほうが筋肉量は増えやすいという話もある。
だが、前述のとおり、学生の部活動ぐらいの運動では、エネルギー消費に効果的なほどの筋肉量増大は望めそうにない。
「運動する→脂肪が燃焼する」が王道
「筋肉量が増えれば基礎代謝量が多くなる」という考え方は合理的で、実際これは正しいのだろう。
そのため「筋肉増量ダイエット」は理論的には説得力を持ち、人々に期待を抱かせてきた。
だが、「質」の情報は正しいとしても、「量」の情報が欠けていた。
両方が揃わないと、このダイエットをするかどうかの判断材料にはならない。
質と量の情報を並べると、「筋肉増量ダイエット」によるダイエット効果は、ほとんどの人にとって“幻想”に過ぎないということがわかる。
とはいえ、基礎代謝量を増やすまでの筋肉は付かないとしても、運動自体は筋肉の量を保つことにつながる。
何より単純に、体を動かせば(基礎代謝量でなく)活動することでの代謝量が増えるのだから、直接的にダイエットとなる。
「運動して脂肪を燃焼し、ダイエット効果を得る。おまけとして筋肉量が少しでも増えたらいい」くらいの認識でいるのがよさそうだ。
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