緊張を緩和する方法
緊張というものは恐ろしい。
なぜなら、毎日のように試合に出場しているプロ野球選手や、年間にいくつものステージをこなす俳優や歌手でも、ここ一番という時に魔が差したように緊張に襲われ、失敗してしまうことがあるからだ。
メンタルトレーニングを積み重ねた優れたアスリートでも、4年に1度しかない五輪の時など、気持ちをうまく制御できず実力を発揮できなかった例は少なくない。
ましてや、大舞台に慣れておらず、日常的にメンタルトレーニングを積み重ねていない一般人の場合、試験や会社での大事なプレゼンテーションをどのように乗りきればよいのだろう。
そこで、心理カウンセリングやメンタルサポートを行っている、キャリア教育研究所コアペリ代表の新田猪三彦さんに、緊張を緩和する方法を聞いてみた。
■筋肉の緊張と弛緩を繰り返してみよう
意外にも新田さんは、心を直接コントロールするのではなく、身体を使ってメンタルをリラックスさせる方法を教えてくれた。
「まず一つ目は、医学部を受験する生徒が試験や面接、発表などで行っている方法についてお話ししましょう。
エドモンド・ジェイコブソンが開発した『漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう)』というもので、筋肉の緊張と弛緩を繰り返し行うことにより、身体のリラックスを導く方法です。
分かりやすく説明しますと、筋肉の完全な弛緩を誘導するために、各部位の筋肉を数秒間緊張させた後に弛緩することを繰り返していきます。
本格的にこの方法を実践するためには、身体の部位を何カ所にも分けて行う必用があるのですが、生徒にとっては、それを覚えたり、きちんと手順を守ったりしないといけないという気持ちが、逆に緊張やストレスになってしまいます。
そこで『手をグーの形にして、肩に力を入れて、さらに歯を食いしばって、息を吸って、止めて……10秒くらい力を入れたら、一気に息を吐いて、力を抜きましょう』と伝えています」(新田さん)
単純な筋肉の緊張と弛緩の繰り返しでも、心がほぐれてくるということだ。
■ヨガや武道にも通ずる呼吸法
続いて、呼吸法を教えてもらった。
「ストレス、緊張状態では、呼吸は浅くて速くなります。
逆に、リラックス状態では、深くてゆったりとした呼吸になっています。
この点を活用してみましょう。
頭で『落ち着こう、落ち着こう』と思っても難しいので、思考ではなく呼吸に注目し、呼吸をゆっくりすることで、リラックス状態を作っていきます。
身体の状態と呼吸には密接な関係があり、ヨガや武道でも、呼吸法が心身の活動を高める効果があるものとして重要視されてきました。
さらに、腹式呼吸は副交感神経系の活動を活発化させる効果があるといわれており、私達の講義でも腹式呼吸を取り入れています」(新田さん)
副交感神経はいわゆる自律神経の一つで、睡眠中や食事中などリラックスしているときに働く神経である。
副交感神経が活発になると、筋肉がゆるみ血管が広がり、心拍もゆっくりになっていく。
逆に活動している時や興奮している時は、交感神経が活発に働き、血管が細く縮み、心拍数が上がっていくのだ。
■腹式呼吸法で副交感神経を活性化、緊張状態を緩和しよう
「腹式呼吸法は、下腹部が膨らんだり、へこんだりするように呼吸する方法です。
『口からゆっくりと息を長く吐き、鼻から息を自然に吸う』を繰り返していきます。
どうしても何か考えてしまうという場合は、頭の中で『1・2・3……』とゆっくりと吐く息を数えるようにするとよいでしょう」(新田さん)
このようにして副交感神経を活性化させ、緊張状態を緩和させていくのだ。
筋肉をほぐし呼吸を深くするという、身体への働きかけが、緊張緩和につながるということが分かったのではないか。
どちらも場所を問わずできるので、試験やプレゼン前に実践してみて欲しい。
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