慢性腰痛の最新事情
「私たち整形外科医は、慢性腰痛(3カ月以上続く腰痛)は“腰”という局所の痛みだと教わり、長らくそれを根拠に診察してきた。
ところが、脊椎の変形などを手術などで治しても、一向に痛みが改善しない患者さんが少なくないのです」
「第四腰椎のすべり変形のある腰痛患者さんがいて、当時の最新技術を駆使し、固定術を行いました。
手応えもあり、手術後の画像を見ても完璧でしたが、その患者さんは『痛みがちっとも治まらない』と私に言ってくる。
結局、別の病気で亡くなるまで、腰痛に苦しまれました」
「急性腰痛をこじらせたのが慢性腰痛だと考える患者さんが多いのですが、実はそういうケースはまれです。
“急性腰痛をきっかけに別の要素が加わり、痛みが改善しにくくなった状態”というのが、慢性腰痛に対する最新の考え方です」
「慢性腰痛の患者さんは健康な人に比べて脳の一部の機能が低下しているため、痛みに過剰に反応し、感情も増すのではないかと考えられるのです」
「一つの仮説として“やる気ホルモン”と言われるドーパミンという神経伝達物質が関係している」
「通常、脳が痛みを感じるとドーパミンが分泌され、脳内モルヒネが増えます。
ところが、何らかの理由で過剰なストレスがかかったり、不安な状態が続いたりすると、ドーパミンから脳内モルヒネに至る回路が狂い、痛みを抑える機能が弱まってしまう。
慢性腰痛の患者さんの脳では、そういう機能低下が起こっていて、痛みに対して敏感になり、強く感じ取ってしまうのではないでしょうか」
「楽しかったり夢中になったりしているときは痛みを感じないが、嫌なことや不安があると痛くなるという経験をした人は多いでしょう。
慢性腰痛の患者さんの場合、痛みへの恐怖心などから、マイナスに考えてしまうクセがあり、痛みが長引いてしまうのです」
「安静を続けると腹筋や下肢の筋力が低下し、血流も悪くなるので、腰痛を悪化させる原因になります。
運動自体が脳を刺激し痛みを抑える機能を改善させることもわかってきました」
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