宇宙飛行士の腰痛、原因は筋肉の萎縮か
(CNN) 国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した飛行士らのデータから、宇宙で起きる腰痛の原因が明らかになった。
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の整形外科医らが、米航空宇宙局(NASA)の出資で実施した研究の成果を発表した。
ISSに数カ月間滞在すると、飛行士は身長が最大5センチも伸びる一方、筋力が落ちたり背中の痛みを訴えるようになったりする。
背中の痛みは、宇宙での滞在が長期化し始めた1980年代から報告されていた。
これまでのデータによると、米国人飛行士の半数以上に背中、特に腰の痛みがみられ、中程度から重度の痛みを訴えるケースが28%を占めている。
滞在期間中を通して痛みが続くこともある。
地球に帰還した後も影響が残る。
飛行士らが帰還後1年以内に椎間板(ついかんばん)ヘルニアを発症する確率は、通常の4.3倍にも上る。
研究チームを率いたUCSDの整形外科准教授、ダグラス・チャン博士によると、宇宙飛行で腰痛が起きる仕組みを探った研究はこれが初めてだという。
これまで腰痛の原因として注目されていたのは、背骨を構成する「椎体(ついたい)」の間で衝撃を吸収するクッションの役割を果たす椎間板という組織だ。
しかし、ISSに4~7カ月間滞在した飛行士6人についてチームが調べたところ、椎間板にはほとんど変化が起きていないことが分かった。
一方で、背骨の下半分に当たる腰椎(ようつい)を支える筋肉組織が大幅に衰え、萎縮していた。
地球上ではこの筋肉が重力に逆らって姿勢を保ったリ、歩いたり腕を動かしたりするのに使われ、椎間板や靭帯(じんたい)を保護する働きもしている。
宇宙空間では背骨に重力がかからないため、通常のカーブがなくなってまっすぐに伸びる。
かがんだり腰を使って動いたりすることがないため、筋肉を使わないまま過ごすことになる。
腰にギブスを着けて数カ月間過ごすのと同じような状態になり、結果として痛みやこわばりが起きると、チャン博士は説明する。
滞在前後のMRI(磁気共鳴断層撮影)画像を比較すると、飛行士らの腰の筋肉は19%も減少していた。
帰還後に6週間の訓練とリハビリを実施してからさらに調べたところ、失われた筋肉は68%しか回復していなかったという。
これは将来の有人宇宙飛行にかかわる重大な問題だと、チャン博士らは指摘する。
例えば火星に行く場合を考えると、片道で8~9カ月かかるうえ、滞在中に受ける重力も地球上の4割ほどにすぎないため、筋肉の萎縮が懸念される。
チームでは今後、腰のほかに首の痛みについても研究する予定だ。
首は腰よりもさらに筋肉が萎縮しやすく、回復に時間がかかる可能性があるという。
別の大学との共同研究で、ISSに滞在している飛行士の背骨の変化を超音波で調べる計画もあるという。
チャン博士はまた、腰痛を和らげる対策として、飛行中の体力トレーニングにヨガを取り入れる案などを検討している。
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